ミックスについて
録音した音源を後で聴き直して、アルバムに収録する曲をセレクトします。この時にもオフマイクでの全体風景の録音データが役に立ちます。
各パーツをミックスしなくても全体の雰囲気がわかるのです。
今回はアルバム収録時間も考え、全曲の中の半分くらいの曲をオーケーテイクとします。
そのうち一曲は譜面も無しにその場で行った完全なフリーインプロヴィゼーションです。
アルバムに収録しない曲も将来的に配信や追加収録バージョンアルバム展開も考えてデータの削除はしませんが、ミックス作業候補から外すことで余計な作業を減らします。
各トラックを聴きながら収録候補曲をライブ感あふれる勢いのある音にしていきます。
ここで注意することは、全曲を通して一律のミックスを行なっていくか、各曲毎にある程度ミックスの方向性を変えていくかを考えます。
通常、ライブレコーディングアルバムを作る場合、全曲を通して一貫した残響感や音色調整をして、アルバムの統一感を作ります。
とはいえ、必ずしもそうしなければならないわけではなく、曲によっては会場の自然な残響感や音色を尊重したり、別の曲ではよりアグレッシブにエッジを出したりロック・メタルっぽく曲のカラーを強調することも出来ます。
今回のミックスでは、曲毎にミックスの方向性を少しずつ変えて、統一感よりも曲毎の個性を際立たせることにしました。
ここら辺は演奏者同士の打ち合わせでニュアンスを作っていくので、その意味でも演奏者自身がミックスしていくことのメリットでもあります。
今回は
①アコースティックジャズ的なミックス
②ロック的なミックス
この二方向のミックスを曲や演奏アプローチに応じて使い分けることにしました。
目次
作業開始
いよいよ作業開始です。
全曲の中で①、②のどちらの方向も含んでいるような曲を選びます。この曲をミックスしてみて、他の曲を①方向、②方向と振り分けていきます。
まずはドラムの音を確認
まずはドラムの左右のオーバーヘッドマイクからの音を確認します。
このデータをステレオに振り分けて、このマイクに被っている余分な低音成分をカットし、シンバル類の輪郭をはっきりと聴こえるようにします。
またリバーブも調整して一度ラフな全体像をイメージしてしまいます。
過去に武藤先生がリリースしたライブレコーディングアルバムでは、このオーバーヘッドマイクからのデータだけでミックスした音源もあります。
この音源とオフマイクの音源データを合わせてラフなドラムのイメージをまず作ります。
次にドラムに立てた各マイクからの音を確認します。
キック(バスドラ)、タム類、ハイハット・スネアの音色を調整していきます。
これらについての詳細は今回は省きますが、イコライジング、コンプレッションについてのこまかな調整作業が主なものになります。
次にギターのラフなミックス
次にギターのラフなミックスです。
ギターのトラックはアンプに立てたマイク一本なので、このマイクからの音を武藤先生の好きな音質に調整していきます。
前記事で書きましたが、場合によってはアンプ直近、アンプから少し離したマイク、アンプ裏での鳴りなど、複数のマイクを使ってより緻密に音色を作り込む場合もあります。
ミックスでは残響感も加えます。ライブ会場では壁など様々な角度からの反射音が聴こえるため、アンプ前にたてたマイクで録音した音より実際に聴いている音の方が深みがあったり、残響感がかかった音として聴こえます。
このライブ会場で聴こえる音をDTMソフト内の様々なプラグイン(エフェクトをかけるソフト)によって再現していきます。
ショートディレイやリバーブのプラグインを使っています。
スタジオレコーディングではコーラスやフランジャーなどの空間系モジュレーションエフェクターなども加えたり、ロングディレイを左右にパンしたりと様々な加工をする場合も多いですが、今回のアルバムはあくまで自然なライブレコーディングアルバムとして、過剰なエフェクト処理は行わない方向です。
ただ、ライブ中にもリアルタイムでサンプラーやリングモジュレーターなども使っているので、出音はかなりカラフルなイメージではあります。
バランスの調整
ドラム、ギターそれぞれの基本となる音色を作ったらつづいてドラムとギターのバランスの調整に入ります。
二つの楽器がライブ中でのイメージ通りに聴こえるように何度も音源を再生してバランスを取ります。
また、インプロヴィゼーションでのその都度その都度のイニシアチブをとっているプレイヤーをほんの少しだけ前にだして、アルバムを聴いている人がインプロヴィゼーションの流れを理解しやすくすることも行なったりします。
ライブレコーディングでは演奏中にプレイヤーがバランスをとりながら演奏しているので、ミックス時にそれほど複雑な調整は必要ありませんが、このバランスのとり具合によってアルバムの完成度が大きく変わってくるので、一曲ごとにかなりシビアに確認します。
また静かな音量の時と爆音の時の音量を録音データそのままに再生すると、その差が大きすぎてアルバム再生中にボリュームを変えなければならないので、静かな音量の時の演奏を元の録音より少しだけ大きめにしたりといったデータのボリューム調整をオートメーションを使って細かく指定していきます。
この作業も演奏者自身がミックスすることで、かなりスムーズに演奏者自身のイメージに近づけることができます。
全体を通して一定のボリュームで聴いて不自然なダイナミクス変化が無いようにします。
とはいえ、この差を狭めすぎるとライブでのダイナミクスという即興表現そのものがなくなってしまうので、これもとてもバランス感覚の必要な作業です。
これらの作業を根気よく曲毎に行なっていきます。